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空につながるための家

トリー闘病8 〜急変〜

朝、近所の公園を散歩したとき、ふらふらっとバランスが取りづらい歩き方になり、公園入り口を入ったすぐのところで、バタンと倒れてしまった。前日までは後肢はふらつくものの元気いっぱいだったのに。
なんでもないことのようにふるまって、「大丈夫?やだなあ。はいはい、行こうね」と励ましたのだが、もういいです、うちへ帰りましょう、と言い出した。公共の場ですっかり自信をなくしてしょんぼりしているとか、自分でもなにが起こっているのかわからなくて戸惑っているように見えたけれど、実際のところ、かなり調子が悪く、もう散歩どころじゃなかったんだろう。
「トリちゃん、じゃあ、あそこのベンチで豚耳食べて帰ろう」
大好きなおやつとなると話は別だった。目を輝かせて10m位離れたベンチまで自分からずんずん歩いていき、そこでおすわりさせ、もうちょっと散歩を楽しんでからあげるはずだった豚耳を食べさせた。
でも、悲しそうな顔をして食べない。

...え?

じっとこちらを見つめる顔、左の唇がだらんと垂れて頬からよだれが出ていて...異常だった。
「しょうがないなあ。こっちの歯で食べなさい」
ことさらになんでもないようにふるまって、もう片方の奥歯で噛ませて食べさせて、うちに帰ったが、ぼんやりしている。
そのうちに、左顔面の下垂が目立つようになり、息が荒くなってきた。

かかりつけのAペットクリニックに電話したが、祭日で誰も出ない。以前だったら休診じゃなかったし、必ず電話に出てくださっていただろうけれど、もう両先生もお歳を召していらっしゃるから...
かかりつけじゃない病院で知らない先生に診てもらうことで、かえってトリーを疲れさせ、ストレスをかけるんじゃないかとためらいながらも、そんなこと言ってられる状態じゃないと、電話帳やらインターネットで調べて、とにかく近いところから電話をかけまくったが、どこも休診。
昔から個人でされているクリニックにかけたとき、転送されて、パチンコ屋さんにいるらしいおじいさんの先生が出られて、救急病院に行きなさいと助言していただいた。
初めて電話が通じて、受話器の向こうの温かい口調に初めてほっとした。早速救急病院で予約をとったのだが、診療開始時間は19時、それまで待つ時間も惜しくて、また電話をかけまくった。
うちから車で30分ほどのC動物病院に電話がつながって、1時間近く丁寧に経過を聞いてくださり、個人病院であるC動物病院でできること、できないことを説明してくださった。それ以上の高度な検査や治療はD医療センターを紹介していただけるとのこと、とにかく早く診てもらいたくて、トリーを連れて、夫とC動物病院に向かった。

おでかけで興奮して、元気になってしまったトリーは、タカタカ走って病院に入り、C先生を驚かせた。
「電話の感じだともっと悪いと思ってたんですが、今、元気ですねー」
C先生は、長髪を後ろに束ねた四十歳位の男性で、いつも通っている美容院の美容師さんを思い出させる風貌だった。

2時間以上かけて足をつついたり、叩いたり、ぐっと押して戻りを診たり、血液を採取して、機械でも、顕微鏡を使って目視でも検査していただき、耳の中からお尻の穴まで全部チェックしていただき、それを、私達夫婦に噛み砕いて説明してくださった。

初めての病院だったけれど、トリーに口輪をしないで、やさしく接してくださり、トリーもリラックスして、診察室から先生がいらっしゃる奥の検査室までトコトコ歩いて見に行ったほどだった。

結果:
左顔面麻痺、チック
眼振(ひどい目眩でぐるんぐるん世界が回っている状態だろうと)
右目の反応鈍い。眩しがらない。
足の麻痺は深刻ではなく、反応もある。目眩のためにふらつくのかもしれない。

<血液>*基準値外のものだけ抜き書き
WBC 白血球 43 (どこかで使われているのかもしれない)
Lym リンパ球 5 (ストレス?)
Plt  血小板 6.1 (どこかで出血している?)
CRP 炎症反応性蛋白 2.0 (感染、炎症)
GOT 肝酵素 62
TCHO 総コレステロール 318
ALB アルブミン 2.4

脳、神経、血小板...ひとつの病気から来ているものか、複数の病気が重なってこの状態になっているのか、個人病院で自分ができることは全てした結果、それぞれの可能性を示唆することはできても病名を特定することはできない、とのこと。
これ以上はD医療センターで精密検査をするべく、検査しながらも、何度も頼み込むように予約のお電話をしつづけてくださっていたのだが、そこで私が友人からのメールを開き、5月7日にやっとこさ予約を入れてもらったB動物病院でも、容体の悪化を伝えれば休診日でなければ予約なしで診てもらえるよ、とのこと。
D医療センターでも、B動物病院でも、最短で診てもらえるのは5月5日。
実は、D医療センターがめちゃめちゃ設備がよく、めちゃめちゃ治療費がかかるという話はお散歩のときに出会ったおじいさんから聞いていた。説明のないまま検査に数十万円、入院で数十万円、結局おじいさんの愛犬は亡くなってしまったそうだ。この日D医療センターでは初診料と休日診療料に◯万円かかる、と聞いたとき、夫は治療費全部の金額だと勘違いしていた。二桁違うだろうことを言えない。。
B動物病院で助かった胃捻転のワンコ、B動物病院で痛みをコントロールして最期まで幸せに天寿を全うした骨肉腫のワンコ...B動物病院ではいい評判ばかりを耳にする。

私「あのう...B動物病院で診てもらおうと思うんですが」
C先生がぎょっとして、D医療センターとの電話を打ち切り、お気持ちを切り替えるように大きなため息をついて、忘れられない言葉を口にされた。

C先生「わかりました。今、soraieさんがされた選択が一番いい道なんです。決して後悔しないでください」

どんな道をたどっても、後悔することをわかって、おっしゃってくださったんだと今はわかる。獣医師って、患畜だけでなく、飼い主も治す職業なんだ。


脳腫瘍にしては元気すぎる、こんな元気じゃいられないはずだ、っておっしゃってくださったけど、脳腫瘍かもしれない。複数の症状が複数の原因でいっぺんに出ることって考えにくいから...
「可能性がある」はっきりとはおっしゃらなかったけど、最悪の病気へ私達の気持ちをソフトランディングさせてくださったんだなと今ではわかる。

処方薬:
抗生剤(マルボフロキサシン)
ステロイド(プレドニゾロン)


1階の和室に布団を敷いて、添い寝した。階段の昇降はなるべくさせたくなかったし、ここなら玄関脇で、すぐに庭に出してトイレさせることもできる。トリーは寝返りを打てなくなっていて、介助しながら夜を明かした。
押し合いながら一緒のシングルベッドで寝ていたのに。邪魔だよとか蹴ったりして。

もっと悪くなったら、2階のリビングで過ごすことになるだろうけど、まだ先だって思ってた。
トリー、ごめんね。私よりお前の方がずっとひどい目眩だったんだね。トリー、こんなひどいことになっていたのに、ごめんね。
早く5月5日になりますように。早く診てもらおう。


この日から半年経った今でも、病院の選択について誤りだったと苦い気持ちがこみ上げる。でも、D医療センターでも、第三の選択の大学病院でも、トリーは助からなかっただろうし、最期の日々を不安や苦しみなく過ごすことは難しかったと思う。

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